寝たきりになったらどうする?
寝たきりになれば入浴は困難だ。
身体を拭くとか清潔を保つ方法はたくさんあるが、それはネグレクトをした人間にはふさわしくない。ちゃんと因果応報を体感させたい。
「あんたが寝てるから、掃除も出来やしないわ」そう母に言う。
濃い茶色の木製ベッドの縁には埃が積もる。
母の友人たちが見舞いに来る。
楽しそうな談笑が聴こえる。
久しぶりに会って積もる話もあるのだろう。
普段独りぼっちで寝ているのだから楽しいに違いない。
わたしはおもむろに腰をあげて、母のところに行く。
「わ〜くっさいわ〜」顔の前で手を忙しく振る。
「くさい、くさい」
そしてふとベッドの縁を見て叫ぶのだ。
「あらららららら〜!!!」
「垢だらけっ!これ、垢よ、皮膚と垢ね〜うわ〜きったないわ〜」
「もうずっとお風呂も入ってないしねぇ。汚いの。垢だらけよお〜」
顔を見合わせて「お暇」を言いだすであろう客人たちを尻目に
「あ〜あ〜あ〜。もういやねえ。汚いわ臭いわ。ねえ」
「そろそろ失礼するわね」という母の友人たちに不機嫌な一瞥を投げつけて
「そうねえ。もういい時間だもの」と毒を吐く。
彼らが帰ったら聞こえよがしに言うのだ。
「まったくいつまでいるのかしら。あ〜あ〜」
そしてガチャガチャと大きな音で雑に食器を洗うのだ。
お母さん、あなたがわたしにしたことですよ。
小学校高学年で半年ほど寝たきりになった。
自宅療養だから母が世話をしてくれた。
罵詈雑言を浴びせながら・・・
せっかく来てくれた友人たちに母がしたことだ。
年寄り同士なら「ひどい娘さん」と同情されるだろうし
本気で汚いと思ったりもしないだろう。
帰る理由は娘にいじめられる母に対する同情だ。
でも、小学生は違う。
本気でベッドのほこり、それもバカ母が掃除をしないから溜まっているほこりを
垢だと思って汚いから帰って行くのだ。
彼らは二度と見舞いに来なかった。
なんであの女は娘を不幸にしようとするんだろう?
考えても仕方ないから、わたしは妄想で仕返しする。
あんたが寝たきりになって、わたしに面倒なんて見させようとするなら
やってやるからね。